最適な投資対象を選ぶ方法

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投資対象には必ずリターンとリスクというのがあるのですが、いろいろありすぎて結局どれを選べばいいのか私にはさっぱりわかりませんでした。よくリターンをリスクで割ったシャープレシオが大きいものが有利と言われるのですが、シャープレシオが同じくらいでもハイリスクハイリターンのものやローリスクローリターンのものがあって、結局どれを選んだら最適なのかわからないからです。そもそもシャープレシオを基準に選んでいいのかも疑問に思っていました。

そこで、数学的にしっかりとリターンとリスクについて検証し、最適な投資対象の選定方法を定めたいと思います。

リターンとリスクの定義

まず、驚いたことにリターンとリスクについて調べてみると、それぞれのサイトで定義がバラバラであることに気付きます。配当金のある投資対象は配当金をもらわないで全部投資に回して複利運用した場合の補正をかけなくてはいけないのは当然として、その他にも注意が必要です。

数学的に用いるリターンは、年利の期待リターンですが、よく掲載されているのは1年間の実際のリターンや、3年間、5年間の累積リターンであったりします。年利の期待リターンを算出するためには、なるべく長い期間の年利の平均を求める必要があります。

数学的に用いるリスクは、年利の標準偏差を意味するのですが、よく掲載されているのは、12カ月間の月利の標準偏差であったりします。リスクを算出するためには、なるべく長い期間の年利の標準偏差を求める必要があります。

また、月利の標準偏差の場合は年利の標準偏差に換算するために√12倍します。ただし、それぞれの月のばらつきがランダムな前提ですので、大変動のあった月の翌月はばらつきが大きくなり影響を受けるので、月利の標準偏差から年利の標準偏差に換算するのはあまり正しくはなさそうです。

何年分データが必要?

年利の期待リターンや標準偏差を算出するにあたって、なるべく長い期間のデータが必要だとして、いったい何年分必要なのかは投資対象の標準偏差σによります。下の表は期待リターンの誤差(95%信頼区間)がどれくらいになるかをまとめたものです。20年分くらいデータがあれば期待リターンは標準偏差の半分くらいの領域に収まる事がわかります。また、それ以上データを増やしても大きな改善は見られない事から、20年分が妥当と思います。

表1. 期待リターンの誤差

年数 σ=5% σ=10% σ=15%
1 ±64% ±127% ±191%
3 ±9% ±18% ±28%
5 ±6% ±11% ±17%
10 ±4% ±7% ±11%
20 ±2% ±5% ±7%
30 ±2% ±4% ±6%

リターンとリスクと確率分布

一般に用いられている年利というのは、単年度の単利を何十年分も並べたに過ぎないわけですが、なんと単利のデータは実際正規分布ではないそうです。より正しくは連続複利が正規分布するんだそうで、実際のリターンは対数正規分布に従うそうです。しかも、分布の両端付近は対数正規分布ではほぼ確率ゼロになるにもかかわらず、実際は0.1%~数%程度の無視できない頻度で、大変動が発生するので、この領域は対数正規分布でも近似できなくて、べき分布に従うそうです。結局、分布の中心付近を対数正規分布で見積もって、分布の両端はべき分布と思って多めに見積もっておけばよいということと思います。

連続複利の期待リターンと標準偏差は?

一般に公開されている投資対象の期待リターンμと標準偏差σは当然単利であり、本当は対数正規分布のものを正規分布だと仮定して無理やり算出したものです。より正しく見積もるためには、正規分布をしている連続複利の期待リターンμ0と標準偏差σ0を算出する必要があり、下記の式で求める事ができます。

例えば期待リターンμ=5%、標準偏差σ=10%といわれる投資対象は、下記の図1黒線の正規分布(μ,σ)ではなく本当は青線の対数正規分布(μ00)を持つという事です。さらに実際は両端はべき分布も考慮して赤線のように補正する必要があります。(この図では1.5σより外側はべき分布に従うとしました。)

図1. 年利の分布.

N年後の収益分布

N年後の収益分布は対数正規分布(N×μ0,√N×σ0)で計算できます。例えば期待リターンμ=5%、標準偏差σ=10%といわれる投資対象の1年後、3年後、5年後、10年後の収益分布は図2のようになります。実際は両端はべき分布も考慮して、裾がさらに広がると考えておく必要があります。

図2. N年後の収益分布.

N年後の収益の最頻値

最頻値は図2の収益分布でいうところのピーク位置で、最も多くの人が大体このあたりの収益に落ち着くということなので、収益の見積もりに最も大事な値です。対数正規分布の最頻値は下記の式で表せるので、N年後の最頻値も下記のように表せます。

この関係を使って、期待リターンμと標準偏差σと巷ではいわれている投資対象のN年後の収益の最頻値を下記図3にまとめました。最も重要なのは損失と書かれた黒い領域で、この範囲にある投資対象は大半の人が損をするという事です。

また、期待される収益の等高線は曲線になっており、リスク5%に対しリターン2%くらいの傾きになっている事がわかります。やはりシャープレシオは目安にしかならない事がわかりました。また、当然ながら左上に行くほど収益率はアップしていきます。

(a) 5年後

(b) 10年後

(c) 20年後

図3. リターンとリスクとN年後の収益の最頻値.

N年後の収益のベストケース・ワーストケース

先ほどはN年後の収益の最頻値をグラフ化しましたが、ベストケースとワーストケースも考慮しておく必要があります。エクセルの逆関数LOGINVを使って下記図4のように簡単にベストケースとワーストケースを見積もることができます。ベストケースとしては上位2.5%、ワーストケースとしては下位2.5%の人の20年後の収益を例として載せました。実際は分布の両端はべき分布に従うと思いますので、下記の見積もりは過少評価していると思います。実際は上位5%くらい、下位5%くらいの人々が含まれると考えておいた方がいいと思います。

ベストケースの場合はリスク5%に対してリターン2%くらいの傾きの曲線で等高線が描かれており、右上に行くほど収益率がアップしていきます。

ワーストケースの場合はリスク2%に対してリターン1%くらいの傾きの直線で等高線が描かれており、最頻値と同様に左上に行くほど収益率がアップしていきます。また、損失を抱える人の発生する領域も当然ながら最頻値よりは大きく広がっています。しかしながら大事なのはは、ワーストケースでも損失を抱えない領域があるということかと思います。

(a) 20年後のベストケース上位2.5%

(b)20年後のワーストケース下位2.5%

図4. リターンとリスクとN年後の収益のベストケース・ワーストケース.

まとめ

これまでの議論を踏まえて、最適な投資対象を選ぶための手順を図5にまとめます。まず、第一に最頻値で損失領域となる領域は避けることは当然として、ワーストケースでも損失が出にくい領域を選びます。次に最頻値が最大となる投資対象を選びます。次に、最頻値が最大となる等高線上に複数の投資対象が並んでいる場合には、ベストケースが最大となる投資対象を最終的に選びます。

図5. 最適な投資対象を選ぶ手順(投資期間20年ベース).